
支える存在でありたい
― 代表のストーリー
私の原点は台湾です。そこで生まれ育ちました。
その後、日本へ渡り、帰化しました。
二つの社会を行き来するなかで、違いを受け止め、橋を架ける視点を養いました。
国と国のあいだに橋をかける――それが私の原動力です。
台湾は地震の多い国です。建物は常に揺れに晒されています。
構造の選択、施工の精度、維持管理の徹底――どれも欠かせません。
わずかな甘さが安全を損ない、暮らしを揺らす現実があります。
だからこそ、私は「建設で安心を設計する」と心に決めました。
同時に、台湾はエネルギー資源に乏しい島国でもあります。
化石燃料の価格変動に暮らしが左右されやすく、
供給の地政学リスクが常に影を落とします。
節電(省エネ)と創電(再エネ)を両輪で備える必然性を、身にしみて感じました。
省エネは単なる節約ではなく、安心を組み立てるための設計思想です。
再エネは善意ではなく、供給を安定させるための分散戦略そのものです。
小さな改善の積み重ねが、翌年の安定稼働をつくり出す。
そう信じ、私は現場で実装し続ける道を選びました。
台湾で学び、日本で磨く――私の選択は一貫しています。
言語の壁、文化の差、技術の作法を統合し、
図面と現場、契約と運用の“隙間”を縫い合わせる役割を担ってきました。
現場の汗と丁寧な合意形成によって、確かな前進を引き出してきたのです。
日本へ帰化した決断は、覚悟の表明にほかなりません。
この国のインフラを日々の仕事で支える覚悟。
丁寧な言葉と透明な手順で地域の納得を積み上げる覚悟。
アジアの供給網を日本の品質基準に接続し、責任を引き受けていく覚悟。
その覚悟を胸に、これからも橋渡しの役割を果たしていきます。
建設と省エネに向かう理由
私の志が具体的な形になったのは、大学時代の経験でした。
台湾のキャンパスには、地震計が常に揺れを記録する研究棟があり、掲示板には節電を呼びかける張り紙が並んでいました。
そこには「建物」と「電気」が、日常の中心にあるという現実がありました。
最初の転機は、構造実験の夜でした。
小型フレームに疑似地震波を加え、変形を測定する。
数値上は許容範囲に収まっていても、表面には微細なひびが走りました。
コンクリートの匂い、鉄筋のきしむ音。
“安全率”の裏側に潜む現実の脆さを、私は初めて肌で感じました。
教授の言葉が今も心に残っています。
「図面は仮説にすぎない。現場で検証して、初めて完成するのだ」。
その言葉を胸に、地域の古い集合住宅の簡易診断に参加しました。
共用部のひび割れ、錆びた手すり、避難を妨げるわずかな段差。
住民の方からは「大きな揺れのあと、眠れない夜が続いた」という声も聞きました。
耐震補強を理解してもらうため、図解を使って費用と効果を“見える化”しました。
私は学びました。“納得”こそが最初の補強材である、と。
二つ目の転機は、エネルギー監査の実習でした。
対象は大学寮と小さな研究室。
赤外線サーモで外壁の熱の逃げ道を可視化し、古い窓まわりの漏気や、夜中まで点きっぱなしの照明を確認しました。
「省エネ」とは単なる我慢ではなく、設計を見直し配置を工夫することだと気づいた瞬間でした。
負荷曲線を描き、ピークを削る。
換気タイマーの導入、待機電力の切り分け。
照明は蛍光灯からLEDへ、制御は在室センサーへ。
小さな改善の積み重ねで、電力消費は確実に下がりました。
“行動と設備の組み合わせ”が効果を生むと確信したのです。
三つ目の転機は、ある雷雨の夜に訪れました。
突然の停電で、キャンパスの一角が真っ暗になったのです。
実験は中断、学生食堂は長蛇の列。
非常灯のわずかな光を頼りに、皆が静かに再開を待ちました。
そのとき、電力の不確実さを身体で理解しました。
翌日の討論ゼミのテーマは「分散と冗長」。
再生可能エネルギーは善意ではなく、供給を安定させるための戦略だ。
小規模でも近い電源、需要側の柔軟性。
直流側のロスやパワーコンディショナーの効率カーブ。
議論を“設計に落とせる言葉”へ翻訳する役割を、私は自然に担うようになっていました。
インターンシップでは設備会社の現場を巡りました。
屋上の配線経路、雨仕舞いの納まり。
図面にない段差や、強風によるケーブルの振れ。
監視システムの閾値が高すぎて、実際には異常を拾えない設定。
“紙の上の正しさ”だけでは現場は動かないと痛感しました。
台湾特有の高温多湿、台風、塩害。
材料の選定ひとつが寿命を左右する現実を学びました。
点検のしやすさ、作業員の手が届くスペース確保。
十年先の“楽”を今ここで仕込む――ライフサイクル全体を見据えた設計思想が、私の軸となりました。
同級生には土木・防災・電気を専攻する学生も多く、議論は時にかみ合いませんでした。
そこで私は、言葉の粒度を合わせる役に回りました。
「負荷」「応力」「効率」「応答」――定義を揃えるだけで議論は前に進む。
その経験は後に、国際調達や翻訳の現場でも役立ちました。
中国語、日本語、英語。
資料を三言語でまとめ直し、現地工場とやりとりを繰り返しました。
仕様の一語、検査の一票、受入基準の一行。
誤解を取り除くたびに、コストも遅延も確実に減っていきました。
“橋渡し”こそが実装そのものだという確信が、深まっていったのです。
卒業制作は、既存建物の改善計画。
耐震の簡易補強と、設備更新による省エネを同時に設計しました。
段取り、工期、仮設動線、近隣説明。
図面の外側にある現実まで計画に組み込みました。
「止まらない工事」を、紙の上で先につくる訓練でした。
地震の多発という現実。
資源制約という現実。
大学時代に経験した実験、停電、監査、住民との対話。
そのすべてが私の職能を形づくる要素となりました。
建設で守り、省エネで未来をしなやかにする――その決意は、大学時代に固まったのです。
国際調達と橋渡しの実務
最初の現地監査は、台湾南部の工業区でした。
朝の湿気の中、シャッターが上がり、ラインが動き出す音が響く。
図面上の公差と、現物のばらつき。
数字の“差”が、そのまま品質の“差”につながる現実を目の当たりにしました。
検査表には「合格」と記されていました。
しかし端部の面取りは甘く、ケーブルの取り回しに無理が出る。
私は写真と寸法で記録を残し、是正案を三つ提示しました。
その際、費用と納期への影響も併せて示しました。
工場長は首をかしげました。
「工程を増やせば納期が遅れる」。
そこで私は段取り替えを提案しました。
前工程で治具を追加し、後工程の負担を減らす。
全体のスループットを落とさない形で解決策を見いだしたのです。
交渉の軸は三つ――価格、納期、品質。
三つを同時に立たせるのは難しい。
しかし、言語化すれば道は開けます。
「ここは譲る、ここは譲れない」。
基準を共有できた瞬間、交渉は一気に前へ進みます。
次に訪れたのは、中国沿岸部の大規模メーカー。
サンプルは美しい。
しかし、量産では品質が崩れる兆しがありました。
原因は外注先の材料ロット差。
私は一次、二次のサプライヤーまで追いかけ、確認しました。
会議室での合意は紙一枚にすぎません。
実効性は現場で決まります。
是正措置の期限、再発防止の手順。
「誰が、いつ、どう測るか」。
日本語・中国語・英語の三言語で版を管理し、徹底しました。
海上輸送は別の戦場です。
港湾ストでスケジュールが崩れる。
私は在庫の安全率を上げ、便を分散させる提案をしました。
通関書類の不備をゼロにするチェックリストを導入し、遅延の波及を上流で吸収したのです。
一度、船便の遅延が避けられない事態がありました。
現場の工程は止められません。
そこで代替仕様の短納期手配と、現場の段取り替えを実施。
「先にできる工種」へ計画を切り替え、停滞を最小限に抑えてコストの急増を防ぎました。
通訳は単なる翻訳ではありません。
「検査」と「試験」のニュアンス差。
「保証」と「補償」の法的な重み。
一語の誤解が数百万円の差額を生む。
言葉の粒度を合わせ、前提を固定することが重要です。
展示会では“現場の目”を養いました。
カタログ値の効率だけで選ばない。
端子の防水設計、固定部材の耐候性。
触って、覗いて、裏を見る。
「長く使えるか」という観点でふるいにかけました。
福島への納入案件では、監視装置の閾値が争点となりました。
メーカー既定値は安全側ですが、現地のノイズ環境では過検知が多い。
私たちは実測データをもとに最適域を設定し、誤報を減らして停止対応の工数を削減しました。
別の案件では、クレーム対応が課題でした。
到着品に微細な傷があり、原因は梱包仕様の違いでした。
「箱の中の箱」に緩衝材ルールを追加。
それ以降、同じ不具合は一度も発生しませんでした。
支払い条件も交渉の対象です。
前払い比率が高ければ、発注側のリスクが増える。
そこで検収合格を基準に段階払いへ移行しました。
資金繰りの安定が、品質と納期の安定を生む。
数字と工程は常に連動しているのです。
最も大切なのは、相手の背景を理解すること。
月末の出荷波、祝祭日の稼働、地域の人材事情。
“できない理由”の奥にある現実を尊重し、できる段取りへ導く。
それこそが橋渡しの作法です。
日本側では、図面と契約の整合が肝となります。
仕様の一語を曖昧にしない。
許容差、検査、受入基準、保証範囲。
先に決めて、後で揉めない設計。
合意形成の速度と品質は、同時に高められます。
結論はシンプルです。
現地で見て、測り、記録する。
三言語で整え、段取りで解決する。
価格・納期・品質の三立は、設計と関係性によって実現できる。
私はその“関係”を築き、結果で証明してきました。
現場で大切にしていること
私はこのように多くのことを経験し、学んできました。
そのなかから培ってきたり、大事だと思うことは以下です。
1.最優先は安全です。
朝のKYミーティングで危険源を言語化し、当日の変化点を共有します。
風速、気温、作業高、搬入重量、周辺歩行者の有無を一つずつ確認します。
「分かっている」を「声に出す」ことで、事故は目に見える形になります。
ある日、脚立の脚ゴムが摩耗していました。
誰もが「まだ使える」と言いかけた瞬間、私は交換を指示しました。
午後に突風が吹き、もし古い脚立なら転倒していたはずです。
“面倒”より“再発ゼロ”。それが私の基準です。
2.段取りは安全の次に重要です。
資材は最短動線に仮置きし、無理な持ち運びを減らします。
吊り上げは地上と高所の合図者を固定し、手旗の意味を統一します。
「同じ合図で同じ動き」。現場のストレスはそこで半減します。
3.天候を侮りません。
雨なら防水納まりを優先し、風なら高所作業を避けます。
猛暑日は作業時間を前倒しし、塩分タブレットを常備します。
雪国では朝イチに仮設足場の凍結を解氷し、転倒リスクを潰します。
4.近隣との関係は着工前から始まります。
騒音の時間帯、粉じん対策、搬入ルートを説明します。
農地横なら土埃の飛散養生を厚めに設計します。
“最初の挨拶”が、最後のご理解を決めます。
5.記録は武器です。
写真、図面朱書き、作業手順、検査票を日々まとめます。
“誰が・いつ・どこで・どうした”を揃えることで、論点はすぐに収束します。
記録の精度が、是正の速さを決めます。
6.ちいさな不具合も見逃しません
一度、接続箱で微量の結露を見つけました。
通電は正常でも、端子に微細な腐食が出ていました。
私はケーブルグランドの締め付けトルクを再設定し、乾燥剤の仕様を変更しました。
監視のアラート閾値も見直し、早期検知の感度を上げました。
7.作業の標準化は“迷い”を消します。
トルク値、締結順序、養生の撤去タイミング。
誰がやっても同じ品質に近づけるため、写真付きの手順書に落とします。
属人化は楽に見えて、必ずどこかで破綻します。
8.データで回すのが私の流儀です。
ストリング電流の分布、日射と温度の相関、停止履歴のPareto。
効果と実装容易性で優先度を付け、翌週の是正に落とし込みます。
「感覚の善し悪し」を「再現できる手順」へ翻訳します。
9.通訳は単なる言い換えではありません。
「保証」と「補償」、「検査」と「試験」。
一語の揺れが、現場の混乱を生みます。
私は定義を先に揃え、図面・契約・現場で同じ言葉を使います。
10.最後に、誇りを込めた清掃です。
作業後の清掃は、品質の最終工程です。
落ちているのはゴミではなく、将来の事故要因です。
現場を来たときより美しく。そこに私の矜持があります。
安全、段取り、天候、近隣、記録、是正。
ライフサイクル視点とデータ運用で“止まらない現場”を設計します。
一手の丁寧さが、十年の安心をつくる。
私はその一手を、今日も現場で積み重ねます。
いま、そしてこれから
地震に強い建物を増やす。無駄の少ない設備を敷く。
維持しやすい運用を敷設し、地域の納得を先に作る。
“止まらない現場”を設計し、障害に先手で対処する。
それが私の職能であり、会社としての約束でもあります。
台湾で培った感覚。日本で培った精度。その相乗効果。
二つの故郷の間に立ち、人と人、国と国を結び直す。
図面と現場を縫い合わせ、省エネと再エネを接続する。
こうして、暮らしの安心を、毎日の仕事で一つずつ増やしていきます。
最後に、支える存在でありたい。言葉ではなく、実績で示します。
今日も現場で汗をかき、合意を積み、改善を重ねる。
その積層こそが信頼。信頼こそが社会の基礎体力なのです。
私はその基礎体力を、建設と省エネで支え続けます。
代表 八木 春樹
